在宅か施設かに、唯一の正解はありません
親の介護を、このまま自宅で続けるべきか。それとも、施設を探し始めるべきか。この問いに、どの家庭にもあてはまる唯一の答えはありません。ご本人の状態、住まいの環境、介護する人の仕事や体力、支えられる家族の人数。条件が一つ違えば、ふさわしい形も変わってきます。
在宅を続ける選択も、施設を選ぶ選択も、どちらも「親を大切に思うからこその判断」です。施設を検討することに後ろめたさを感じる方は少なくありませんが、公的な制度は、在宅と施設のどちらの道も支えるように設計されています。この記事では、判断のための材料を、厚生労働省などの公的データにもとづいて整理します。特定の結論へ急がせることはしません。
在宅介護で使える公的サービスを整理する
在宅で介護を続ける場合、介護保険では次のようなサービスを組み合わせて使えます。いずれも要介護認定を受けた方が対象で、利用計画(ケアプラン)はケアマネジャーが作成します。
- 訪問介護(ホームヘルプ):ヘルパーが自宅を訪れ、入浴・排せつ・食事などの身体介護や、掃除・調理などの生活援助を行うサービスです。
- 通所介護(デイサービス):日帰りで施設に通い、入浴・食事・機能訓練などを受けるサービスです。日中の見守りを預けられるため、介護する人が自分の時間を確保する役割もあります。
- 短期入所生活介護(ショートステイ):数日から数週間、施設に宿泊して介護を受けるサービスです。介護する人が休息をとりたいとき、冠婚葬祭や出張などで一時的に介護できないときに使われます。
- 小規模多機能型居宅介護:一つの事業所が「通い」を中心に、「訪問」「泊まり」を組み合わせて提供するサービスです。状態の変化に合わせて、柔軟に使い分けられます。
これらに加え、手すりの設置やスロープなどの住宅改修、福祉用具のレンタル・購入も介護保険の対象です。
これらのサービスを使うには、まず市区町村の窓口や地域包括支援センターで要介護認定を申請し、要支援1〜2または要介護1〜5の認定を受ける必要があります。認定が出たあとは、ケアマネジャーと相談しながら、必要なサービスを必要な量だけ組み合わせていきます。どこから手をつけてよいか分からないときは、地域包括支援センターが最初の相談先になります。
介護保険の「使える上限」=区分支給限度基準額の仕組み
介護保険には、「1か月にこれだけまでは保険を使える」という上限があります。これを区分支給限度基準額といい、要介護度が重いほど上限も大きくなります。金額は「単位」で定められており、1単位はおよそ10円です(お住まいの地域区分により10〜11.40円と幅があります)。
| 要介護度 | 1か月の上限(1単位10円換算) |
|---|---|
| 要支援1 | 約50,320円(5,032単位) |
| 要支援2 | 約105,310円(10,531単位) |
| 要介護1 | 約167,650円(16,765単位) |
| 要介護2 | 約197,050円(19,705単位) |
| 要介護3 | 約270,480円(27,048単位) |
| 要介護4 | 約309,380円(30,938単位) |
| 要介護5 | 約362,170円(36,217単位) |
この上限の範囲内であれば、利用者の自己負担は原則1割です(所得に応じて2割・3割となる場合があります)。上限を超えてサービスを使うこともできますが、超えた分は全額が自己負担になります。なお、福祉用具の購入費(年10万円まで)と住宅改修費(原則として生涯20万円まで)は、この上限とは別枠で定められています。
※上記の単位数は2019年10月の改定後から継続しており、2021年・2024年・2026年の介護報酬改定でも単位数の変更はありません(2026年7月時点)。実際の金額は地域区分やサービスの種類によって変わるため、正確な負担額は担当のケアマネジャーにご確認ください。
在宅の負担が限界に近づくサインの目安
在宅介護には、続けるための工夫と同時に、負担が積み重なりやすい面もあります。ここでは個別の医学的な判断ではなく、公的統計が示す一般的な傾向を挙げます。
一つは、介護する人自身の高齢化です。厚生労働省の2022年(令和4年)国民生活基礎調査では、同居して介護する人と介護される人がともに65歳以上である「老老介護」の割合は63.5%で、過去最高を更新しました。前回(2019年)の59.7%から上昇しており、介護する側も体力や健康の不安を抱えやすい状況が広がっています。
もう一つは、仕事との両立です。総務省の2022年就業構造基本調査によると、介護や看護を理由に離職した人は1年間で約10万6千人にのぼり、その約8割を女性が占めています。離職は世帯収入やご本人のキャリアに影響するため、まず勤め先や地域包括支援センターに相談することが、離職を避ける方法として挙げられています。育児・介護休業法にもとづく介護休業・介護休暇などの制度も利用できます。
睡眠が削られる、外出や自分の時間がまったくとれない、精神的な余裕がなくなる。こうした状態が続くときは、サービスの内容を見直すためにケアマネジャーへ相談する一つの目安と考えられます。どのサービスをどれだけ使うかは、ご本人と介護する人の状況を踏まえて、ケアマネジャーが調整します。負担を一人で抱え込む前に、公的な窓口に相談する道があることを覚えておいてください。
介護保険で足りない部分を補う「保険外サービス」という選択肢
介護保険のサービスには、利用の上限や範囲が決められています。たとえば「上限を超えた分」や、「保険の対象にならない内容」は、保険内ではまかないきれないことがあります。保険の対象になりにくい例としては、見守りだけの付き添い、通院への同行、本人以外の家族の分の家事などが挙げられます。
こうした保険で足りない部分を補う手段として、保険外(自費)の民間サービスがあります。自費のため費用は事業者ごとに異なりますが、利用する時間や内容を柔軟に決めやすく、介護保険では対応しづらいニーズに合わせやすいという特徴があります。在宅を続けながら介護する人の負担を軽くする選択肢の一つとして知っておくと、サービスの組み立ての幅が広がります。契約前には、料金体系と対応できる内容を書面で確認しておくとよいでしょう。
施設を検討する段階に切り替えるときは
在宅での工夫を重ねても負担が大きくなってきたときは、施設を「情報として知っておく」段階に進むのも、一つの備えです。急いで決める必要はありませんが、選択肢を先に把握しておくと、いざというときに落ち着いて動けます。
当サイトでは、埼玉県内の介護施設を市区町村別・種別ごとに、厚生労働省の公開データにもとづいて掲載しています。お住まいの地域から探したい方は市区町村のページを、施設の種類から見比べたい方は種別のページをご覧ください。
施設にはそれぞれ制度上の役割があります。たとえば特別養護老人ホーム(特養)は費用を抑えやすい一方で待機が生じやすく、介護老人保健施設(老健)は在宅復帰を目指すリハビリの機能をもつ施設として位置づけられています。まずは種類ごとの違いを知ることから始められます。
どちらを選んでも、支える制度があります
在宅を続けることも、施設を検討することも、どちらが正しいという話ではありません。大切なのは、介護する人が一人で抱え込まず、使える制度とサービスを知ったうえで選ぶことです。介護保険の在宅サービス、保険外のサービス、そして施設。それぞれに、暮らしを支える仕組みがあります。
迷ったときは、担当のケアマネジャーや、お住まいの地域包括支援センターという公的な相談窓口があります。制度の使い方を一緒に整理してくれる相手がいることも、あわせて覚えておいてください。
この記事の出典
- 厚生労働省「区分支給限度基準額について」および介護報酬改定関係資料(2026年7月時点で有効な単位数)
- 厚生労働省「2022年(令和4年)国民生活基礎調査の概況」
- 総務省「令和4年就業構造基本調査」
- 厚生労働省「育児・介護休業法について」
本記事は制度・統計の一般的な情報を整理したものであり、個別の医療・介護の判断を行うものではありません。実際の利用にあたっては、担当のケアマネジャーや市区町村の窓口にご確認ください。